スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Honeymoon of golden witch 〜イタリア編〜その4【完】

翌朝、目が覚めるとベアトリーチェはすでに着替えてベランダで外の景色を眺めていた。まだ朝食にも早い時間だったけれど、俺は彼女を誘って、外に連れだした。今日の日程が始まる前に、行っておきたいところがあったのだ。ベアトは身支度に時間が掛かるタイプなので、彼女が気まぐれを起こして早起きしているのはありがたかった。
 まだ町は今日の一日が始まるまでの準備中で、開いている店はほとんど無かった。営業を始めているのは太陽くらいのもの。     ホテルから歩いて10分足らずの所に目的地はあった。イタリアではありふれていて、特にローマでは至る所にあるランドマーク。俺は鍵を入れて扉を解錠する。重い音と共に扉が開くと、太陽の光を受けて、ステンドグラスから七色の光が地面に落ちている。それほど広い場所ではないので、少し歩いただけで建物の最奥部に辿り着いた。同じ構造の建物には必ずこの場所にこれがある。名前を調べたら、主祭壇というらしい。一つ勉強になった。
「長い間待たせてごめんなさい。俺と結婚して下さい!」
 俺はズボンの後ろポケットから小箱を出して、ベアトリーチェの前で開けて見せた。彼女の誕生石のトパーズの入った指輪をこの旅行中に渡そうと用意しておいたのだ。
「これ、断ったらどうするんだよ……いままでの件全部なしになるけど……?」
「そういうことだ。ハイかイエスでお返事してくださいってヤツだな」
「どうしよっかなァ〜、別に指輪持ってるから、何個もあっても邪魔なだけだしィ〜」
「プロポーズが嫌なら、ちょっと早めの誕生日プレゼントでもいいぜ。……それとも、新作ゲームのほうが良かったかよ。花より団子ならぬ、花よりミステリーってか?」
 そう言いつつも、ベアトリーチェは指輪に指を通して、太陽に透かして眺めている。その温かい眼差しは、昨日の行為を思い出す。この笑顔を見るたびに、俺は何度でも、言葉を失って無力になってしまうと思う。
「妾も、一途じゃなくてごめんね。…………でも、戦人が手紙の一通でもくれれば一途で居られた。やっぱり戦人が悪い!」
「……ああ、まったく、お前の言うとおりだ。俺は最悪の男だよ。まあ、その。なんていうか。…………茶番だって判ってるけど、今から、やり直したいんだ。普通の恋人がやること、全部」
 俺は歯切れの悪い言い方でそういう事しか出来なかった。言い訳がましいくてダサいと自分でも思うけど、幸せそうなベアトの笑顔の前では俺は単なる背景でしかない。主役は常に、彼女なのだ。
「妾いいこと思いついちゃった! 指輪いらないから縁寿にあげよう。アイツにぴったりじゃん。これでドブスでも彼氏できるだろ」
「おい、人の妹だぞ、何言ってんだよお前、しまいにゃ怒るぞ。ブサイクまでにしなさい。ドブスはやりすぎ!」
「は?戦人だってアイツの事ブスだって思ってるってことだろォ」
「思ってねーよ!縁寿は天使みたいにカワイイって!それにこれ、お前の誕生石じゃん。縁寿は6月産まれだから、明らかにそれ用に用意したんじゃないってバレるって……」
「そんなことはないぞ。説明書を読んでみるがいい」
 俺は小箱の中を開け、小さく折りたたんである紙を探した。そこには11月の誕生石であるトパーズの説明が書いてある。 

 “トパーズは誠実という石言葉を持ち、勇気を持って未来に進む為のサポートをする石と言われます。トパーズ全般で最も特徴的な特性としては持ち主にとって必要なものと出会わせてくれる石であると言う事です。探し物に会えると言っても良いかもしれません。仕事、恋愛、人の縁など自分が望むもの、自分にとって必要なものをトパーズは見つけやすくしてくれるのです。
直観力と洞察力を高め、曖昧な物事をはっきりさせることで、目の前のもやっとしたものが晴れていき、自分が本当に何を必要としているのか、何を見るべきなのかが分かってくる、そういうサポートをしてくれる石と言えます。そしてトパーズは、欝蒼とした状態を払い、未来に対して希望をもたらしてくれます”

「なるほど。まぁ、確かに、メッセージとしては悪くないかもな……」
「うんうん。ってか、話戻るけど、縁寿のファンって縁寿がカワイイからファンな訳じゃねーだろォ……。やっぱり、未来にはまたちょくちょく行きたい!新しいミステリーも出てるし……。その為には、反魂の魔女の力が必要だし、たまには兄嫁として、機嫌をとっておかないと……」
「そう、そういう感じで言えや。デブとかホントに辞めろって」
「妾はブスとしか言ってませーん☆戦人は縁寿のことデブって思ってるんだー、ふーん……」
「ち、ちげーよ!お前がいつも言ってるから、間違えちゃっただけだし!?縁寿、ベアトもお前と似たような体型だからさ、気にすんなよ……」
「違う、違う、全然違う〜!妾のふとももはムチムチしててちょっとエッチな感じだけど、縁寿の足は蹴られたら死にますゥ〜☆」
「めんどくさい結果になるの目に見えてるような……。どうせ、後処理するの俺なんだから、俺一人で行こうかな……。言葉を選んで、先方の心象を良くしないとダメだぞ」
「上手く言うのは大丈夫。妾そういうの得意!逆転シリーズの新しいヤツも出たって言うし、早く呼び出し無いかなァ~」
 俺達がそう話をしていると、扉が開く音がした。
「戦人、誰か来たぞ。隠れよう」
 ベアトリーチェが俺の手を引く。小箱は机の上に置いたまま。そのまま奥に入って隠れた。別に隠れる必要あんのか?と思ったけど、再び扉の開閉の音がした。それを確認してからそこから出ることにした。
「あ、そうそう。話、途中になっちゃったけど、妾は縁寿の付き人のあのピザ屋みたいな帽子かぶってる人に彼氏になってもらえばいいと思うぞ!あの人、結構、顔もカッコイイし」
「えー!ダメだよダメ。絶対ダメ。あんな不真面目で軽薄そうなヤツ、絶対ダメだから」
「そうか?話も結構弾んでるみたいだし、仲が良さそうに見えるがな……?」
「……別に、俺だって縁寿にいい人居たほうがいいと思うよ。別に、もう6歳じゃないんだから、不純異性交友するなとか言わないよ?それが真面目でちゃんとしてる人なら。アイツは大丈夫なの!?」
「もう、長い時間ずいぶん付き合いがあるみたいだし。縁寿のカネが目当てだったらとっくに相手にしていないであろうな。……というか、戦人、あの人に嫉妬してるだけじゃねーのォ〜?女のヤキモチは可愛いけど、男の嫉妬は見苦しいぞ……?」
「は?嫉妬じゃねーよ。俺は縁寿の心配をしてるだけだから!」
「じゃあ、こういうのは?あの人ちょっと戦人に似てるし……」
「似てねーよ!外見、性格、話し方、生い立ち、一切似てません!」
「えー、金蔵はそれでイチコロだったのになァ〜」
「うるせーよ。こういうのとか言ってる次点でダメだから」
 軽口を叩きつつも、ベアトが縁寿の事を気にかけている事に動揺を隠せない俺である。結構気の利いた嫁じゃないか。そして、俺は縁寿のことをまだ子ども扱いしてたのかよ……。この一連の流れで、それがハッキリしてしまった。子ども扱いは改めようと思うけど、やっぱり縁寿には真面目な人と付き合って欲しいと思う……。 
 まだまだ旅行の日程は残っているけど、伝えるべきことは伝えたと思うからここで筆を置くことにする。物語として、読む価値のあるエッセンスも俺なりに抽出したつもりだ。じゃあな、シーユーアゲイン。必要だったら、いつでも呼んでくれ。でも、嫁と旅行している間は、出来れば勘弁。なんてな、いっひっひひ。

Honeymoon of golden witch 本編 完
スポンサーサイト

Honeymoon of golden witch 〜イタリア編〜その3

ホテルの部屋は、ツインの部屋を一部屋予約した。ベアトリーチェはほろ酔いで、ピサの斜塔がもし真っ直ぐだったらというような歌詞の歌を同じ部分だけ何度も歌いながら、さっそく自分の家のようにダラダラしている。 
「そういえば、紗音ちゃんのところにもお前が行ったんだって?てっきり家具の誰かに頼むと思ったのに……。」
「意を決して行った割には、向こうが距離を取りたがってることを思い知らされただけだったぞ。…………妾的にはー、チューした?とか聞かれても良かったのにィー」
「何?聞かれたかったの?」
「うーん、そう言われると……。聞かれたかったような、聞かれたくなかったような……」
 俺はベアトリーチェのいるベッドの隅に腰を下ろした。
「じゃ、俺からも質問していい?なんでエッチさせてくれないんですか?」
「なにそれ。キモい。マジ最悪。あー、今日してもいいかと思ってたけど止めた!止めました!」
「いや、そういうんじゃなくてさ……俺、お前の夫じゃん?一応。そう考えると普通だろ、この質問。…………い、いやさ。なんとなくは判るよ?!でもさ、お前の口から直接聞きたい。もう、その悩みはお前だけのものじゃない。俺の悩みでもあるわけだから」
 しばらく張り詰めた沈黙が続く。俺はベアトリーチェが口を開くまで、折れるつもりは無かった。
「自分の体の変化について行けなくて。前は、こんなんじゃなかったから。…………それに、やっぱりセックスが怖い……の。憧れる気持ちもあるけど、やっぱり、気持ち悪いって思う……」
「………………………………………………」
「あと、いきなり結婚してるっていうのも……。妾、戦人のこと、ずっと好きだったから。それなのに、恋人を通り越して、いきなり結婚なんて。げ、現実味が無いっていうか……」
 ベアトリーチェはそこで一度言葉を切った。
「愛に慣れてないの。…………一万円渡されて自由に使っていいって言われた小学生みたい。まぁ、200億円渡されて、自由に使っていいって言われた中学生だったわけだけど」
「………………………………………………………………」
 ほぼ、予想通りの内容ではあるけれども、重すぎる告白に、俺は絶句する。しかし、自分からこの話を促したのだから、真面目に返す以外の選択肢は無かった。
「よく判った。ありがとう。答えてくれて…………」
 意識的にベアトリーチェの目を見て話した。彼女は俺の言葉に反応している様子ではあったけど、話し終わった後と表情は変わらない。涙ぐんで下を向いていた。
「繰り返しになるけど。これからは、その悩みは俺の悩みでもある。俺も、俺なりの方法で、協力できるようにする。……あれだな。判っていても、一回、ちゃんと話さないとダメだな」
 ベアトリーチェが繊細な女の子だと言うことは知っていたつもりだったけど、普段は軽口なせいで、実際のところ、俺にはもはやどうしたらいいか判らない。この話をこれ以上広げてもいいのだろうか?そんなことしても、お互いもっと気まずくなるだけのような気がする。
 というか、俺が乱暴にするとか思ってんのかコイツは。そんな訳ねーだろ。お前はもうちょい男の体に慣れたほうがいいよ。……いや。そういう事じゃない。それに、多分、こういう言い方は良くない。自分で思っててなんだけど、露骨すぎたかもしれない。言い方をソフトにしよう。
「……ところで、その……話は変わるんだけどさ、お前は俺の体で好きなパーツとかないの?」
 ベアトリーチェは目をぱっちり開いて、ちょっと戸惑っていた。何度か瞬きをした後に、こう答えた。
「手……かなァ…………。こう、ふいに考え事する時とかにチラって手の甲が見えるんだけど、指が長いな……とかゴツゴツしててカッコイイな……とか思ってドキドキしてた……」
「そ、そうかよ……」
 見た目をこいつからこんなにストレートに褒められたのって初めてじゃないか?手。手かよ。ドキドキしてたのかよ……。
「あれ?今もしかして、変態チックなこと言ったか?」
「い、いや。そんなことはねーと思うぜ。普通。そう、普通だよ。…………あのさ。だったら触ってみる?」
 俺は自分の左手をベアトリーチェに差し出した。ベアトはそれを膝の上に乗せ、愛おしそうに何度も撫でている。その様子は、例えるなら、名画のように美しい。まさにキリスト教の宗教画だ。
「あまり見るでない。照れるではないか」
「い、いやさ。これからもっともっと、ジロジロあちこち見られるんだからさ。慣れたほうがいいよ…………」
 俺の体に。そう言おうかと思ったけど、俺はその言葉を飲み込んでしまう。少し余裕の彼女の態度にすっかり飲み込まれてしまっていた。脳に妙な信号が送られて、頭の回転がどんどん鈍くなっていく。
「確かに、戦人とはたまに手を繋いだりしてるし……。いきなり裸になって抱き合わなくてもいいんだよなァ………………」
 そう言うと、ベアトリーチェは俺の左手を自分の口に近づけた。そのまま、一切の躊躇を見せず、目を閉じて俺の左手にキスを落とす。二度、三度と全体的に繰り返すと、俺の左手の中指だけを彼女自身の手で包んだ後つかみ、彼女の口の中に入れた。目を閉じたまま、少しずつ口の中に入れていく。……あの、これって、いわゆるFで始まるアレですよね……?指でないものをそうするのが一般的なあれですよね……?姿は見えないのに、自分の指に伝わる感覚で、彼女の舌の動きが判ってしまう。え?何これ?何なの?この女は一体何を考えているんだ!?止めさせるにはどうしたら良い?どうやって自分の意思を伝えればいいんだ?
 俺の思考が振りきれると同時に、ベアトリーチェは口の中から俺の指を吐き出した。
「うふふ。薄い本でみた戦人もそんな顔してた!」
 完全に面白がっているベアトリーチェ。先ほどまでのシリアスなムードは何処へやら。楽しそうに笑っている。
「おい、俺は触ってみる?としか言ってねーだろ。口に含んじゃダメ!ルールを守れよ!」
「何で触るか指定しなかった方が悪い。これは正当な権利である」
「屁理屈言うなよ。……いや、なんていうか、汚いよ…………。手を洗ってる時だったから良かったけどさ…………」
 ベアトはまだ笑っている。今だったら……。俺はベアトリーチェの体を自分の近くに引き寄せた。そのまま、彼女を抱きしめる。ベアトは小さな悲鳴をあげて、すぐに静かになってしまった。
「なんだよ、まったく。悪戯ばっかりしやがって。そういう悪い魔女は、俺の腕の中に閉じ込めます」
 俺はベアトの唇を指でゆっくりとなぞった。実は、前々から、試してみたいことがあったのだ。
「……………………………………………………」
 実行する前に許可をとってからの方がいいのかなー、と思うけど。なんと切り出していいか判らない。指先は先ほどの動作を継続している。ベアトはなんだかもの凄く幸せそうにしてる。こういう時にする、ちょっと控えめなあの笑顔。どうしよう。カワイイ。
「………………ッ。お前ってさ。……………………やっぱカワイイな」
 俺はなんだか居ても立っても居られなくなって、ベアトリーチェを強く抱きしめた。そのままキスをする。唇が触れて離れるだけのいつものヤツを、自分自身の踏ん切りが付くまで何度も繰り返した。意を決して、口の中に舌を差し込もうとすると、タイミングが合わずにお互いの歯がぶつかってしまう。
「悪りー……痛かったよな。ゴメンな」
「……もう、このヘタクソ……」
「……ごめんなさい。調子に乗りました…………」
「いや………………痛くは無かったぞ。……………………次は妾がやってみるから、戦人はじっとしてて…………」
 ベアトの言う事に従ってされるがままにしていると、彼女の舌が俺の口の中に入ってくる。舌同士でキスするように何度か触れては離れるを繰り返す。挨拶しているようにすら感じられた。程なくして、彼女の舌が動いて、俺の舌に絡んでくる。湧き上がる激情に任せて舌を動かそうとすると、今度は追いかけっこの形になってお互いがうまく噛み合わない。出来るだけ自分は動かさないようにして、軌道にうまく乗せるような形で動きに乗ることにした。コツがようやく判ってきたあたりで、終わりになってしまったけど。
「……………………どうだ……?こんな感じであろうか………………?」
 ゆっくりと目を開けると、ベアトがそう言っているのが聞こえた。顔が赤く高揚している。たまらない気持ちになって、ベアトを抱きしめた。思い切ってるなって思ったけど、やっぱり恥ずかしかったのかな?
「ああ、多分こんな感じだと思う。………………あれだな。お前のほうが上手だな」
 俺もベアトの真似をしてやってみた。強引にしないで、流れに沿って行くほうがうまくいくらしい。ベアトは舌の動きを自分からしないというのが中々判らないみたいで、大分口の中で追いかけっこする形になってしまった。ベッドに腰掛けたままの姿勢が辛くて、一度中断して横になってすることにした。適度なところで止めにしたけど、新しいことに挑戦しているという訓練の要素が強くて、なんだか思っていたのと感じが違ったけど、これはこれで良かった気がする。
 実際に経験してみて思ったことは、キスのレベルを一段階上げただけでこれだけ苦労するということは、これから先は苦労の連続だということだ。まあ、でも、それは楽しみと完全にイコールでもある。
 着替えて寝る準備をしていると、ベアトリーチェは既に眠ってしまっていた。黄金郷でも彼女とは別々の寝室で寝ているから、彼女と同じ部屋で一晩明かすのは、1986年のあの日以来のことだった。

Honeymoon of golden witch 〜イタリア編〜その2

 ローマは他のどの都市にもない独特の異様さが印象的だ。それは何故ってーと、遺跡が街の中にナチュラルに溶け込んでいるから。遺跡の欠片がゴミみたいに街のあちらこちらの芝生に転がっていたり、二階ほどもある遺跡の上にホテルを増築していたりといったりしてやがる。なんでも、あまりにも遺跡が発掘されすぎるおかげで地下鉄工事が全然進まず、ローマを通る地下鉄は二本だけなんだとか。だから車が溢れかえり、二重路肩停車で道が狭くなったり、道のど真ん中で堂々と停車する車が現れてくるのだそうだ。
 喧しいクラクションがあちこちから聞こえてくる。ここでは観光バスが渋滞に巻き込れていた。ちなみに、他のイタリアの都市にはこういうことは無いらしい。
 広い道なのに横断歩道の青が7秒しか続かないなんてザラ。歩行者用の黄色信号がすぐに点灯し、俺たちはいそいそと渡ることになる。現地ガイドの人は「ダイジョウブデスヨー」と悠々と渡っていく。彼らは横断歩道がなくても、赤信号でも無理やり渡る。車はすぐスピードをゆるめてくれる。特にクラクションで怒られることもない。……こうしてみると、黄金郷って実はありふれた都市なのかもしれない。
 ベアトリーチェはデジカメであちこちを撮影していた。一枚取る度に、内容を確認して、気に入らなければ撮り直している。耳にはヘッドホン。彼女曰く、未来人ごっこらしい。しかし、服装は首元がすっきりした襟のない白いシャツに、肩に巻いたカーディガン。ピンク、青、黄色の3色で構成された、よくあるタイルの色分けクイズのみたいな不思議な幾何学的模様をあしらったスカートと、「ローマの休日」に出てきたヒロインのアン王女を思わせる古風なスタイル。スカートの丈は、「あんまり人前で肌を見せるんじゃない」と日頃から注意している俺の努力が実ったのか、膝よりちょっと下。
「未来の皆さん、こんにちは〜!黄金の魔女ベアトリーチェ、千歳だけに繊細です☆」
「え?!何それ?打ち合わせなしにそういうことするの、マジ辞めてくんない!?」
「未来はアイドル全盛だと聞いたのでな……。ちょっと流行に合わせて名乗りを上げてみたまでよ」
「あー、そうなんだ……誰に聞いたの?」
「今日はァー、皆さんにお願いがあります☆今、夏海ケイって漫画家が出してる『うみねこのなく頃に EP8』ってコミックスが……」
「おい!なんで続けるんだよ!段取り守れ!」
「えー、大事な話なのにィ〜〜」
「スケジュール詰まってるんだから、あんまり余計なことすんな。予習してきた?こういうのは基本的に勉強しないと退屈だぞ」
「したした。それよりも妾のお師匠様の17歳ネタに絡めたセンス、どう?ってか、お師匠様スゲーな、時代先取りだったんだな。普遍性があるから廃れないのかな」
「あと、今はいいけど、コロッセオの近くになったらあんま写真撮らない方がいいぞ。なんか、写真に自分が写ったんだから金よこせとか言われるらしいから」
「そうなんだ。じゃあ、家にある角材みたいな、あの置物ひきとってもらおうぜェ〜。邪魔で邪魔でしょうがないし」
「まーたそういう……。俺は知らない土地なんだから少し注意しろって言ってるだけよ?」
「はいはい、戦人。このタイミングでテストでーす!765プロのメンバー13人言って」
 来た。最近は何かって言うとこのクイズが始まる。読んでる人には悪いが、後で説明するのでこのまま続けさせてもらおう。
「えーっと、星井美希。如月千早。四条貴音。双海亜美。双海真美。えーっと……沖縄の……我那覇響。菊地真」
 俺は指を折って数を数える。現在7人。
「そうだ。うーうーじゃなくてうっうーの……やよい。高槻やよい。天海春香」
 ボブヘアーの髪型は二人いた。リボンが付いている方が天海春香。ついてない方は……なんだっけ。名前を忘れてしまった。
とりあえず、現在9人。覚えているところから行こう。
「あれ……?あれ、なんだっけ……なんか……剣豪みたいな名前のヤツいたよな?」
「くすくす。剣豪とかー。たしかに、昔は男性の名前だったけど、現代では女性の名前としても使われるよなァ……」
 ベアトリーチェは笑いながら余裕の表情。
「そうだ、伊織だ。水瀬伊織。萩原雪歩。三浦あずさ、律子。…………あれ律子の苗字なんだっけ?」
 思い出せない。何故だ。前にテストされた時もこのキャラの苗字を忘れていたとか、そんなことばかり思い出す。
「ヒント。ヒントくれ」
「は。戦人のくせに。『ヒントくださいベアトリーチェ様』って言えよ」
「…………………………………………。ダメだ、思い出せない。リザインします………………」
「えー、もうちょっと頑張れよォ〜」
「いや、こういうのは考えてどうこうなるもんでもないし……思い出せないのはしょうがない」
「じゃあ、ヒント。今の季節に関係があります」
「え、秋?……秋月律子?」
「ピンポーン♪」
 そう、最近は事あるごとにこのクイズをさせられる。まさか、黄金郷の領主になってまで、暗記で苦しむことになるとは思っていなかった。最近、ベアトリーチェは真里亞の影響で、「アイドルマスター」というが好きになってみたいだ。なんでも、縁寿に呼び出された真里亞が未来で見てきたアニメがとても面白かったらしい。アニメのヒロインなのか、と思いきや、元はビデオゲームで、プレイヤーはアイドル自身でなく、アイドルを育てるプロデューサーという職業で、彼女たちをトップスターに育てることを競うらしい。楽曲を選ぶ、3人組のアイドルの誰を選ぶかも任意、ラジオ番組やCDまで発売し、それぞれのアイドルのグッツも発売されているとか。……ここまで来ると実際のアイドルと変わらない。生きているのと同じだ。それはイラストレーターが描いた絵を元に作られたアニメやゲームのデータで、声優が吹き込んだ声で、脚本家が考えた言葉であったとしても。むしろ、怪我や病気、スキャンダル、加齢の心配がないと100%保証されている訳だから、現実のタレントよりも、より偶像という言葉がより当てはまる。
 知的な王子様でお馴染みの俺だが、自分からアイドルに興味をもった訳ではないことをお伝えしたい。これは、妹の縁寿と、妻のベアトリーチェに打ち解けてもらうための打算的行動である。真里亞は縁寿の魔女の師匠だ。そして、真里亞はベアトリーチェの親友にして弟子である。そして、その真里亞が好きなものに、二人とも興味が有るのだ。ここに乗っからない手はない。欲を言うなら、縁寿に俺は、俺たち二人の仲を認めて欲しいと思っている。
 ……しかし、真里亞やベアトリーチェの話を聞く限り、未来ではアイドルの追っかけが市民権を得ているようで驚く。これは、実在するタレントとしてのアイドルグループの話だそうだが、未来では人気投票の順位をテレビで何時間にも渡り中継するのだそうだ。スポーツの観戦かよ。ベアトリーチェから未来のことについて教わることになるとは思っていなかった。……実在するタレントも、ゲームやアニメの登場人物も同じ次元で人々から憧れを抱かれる対象になっているという。なんだかそれって、…………。いや、言わないでおこう。
 コロッセオを横切る。話に夢中で気がついたら素通りしていた。何だかんだ、覚えることが色々あるらしいけど、思えば推理小説だって登場人物の顔と名前を覚えることから始まる。大丈夫、俺はきっとやり切れる。 
 俺達はサンタ・マリア・イン・コスメディン教会にやってきた。イタリアのローマにある聖堂であり、最初、古代ローマの廃墟を利用し、東方の聖像破壊運動の迫害から逃れてきたギリシャ人にあたえられた。コスメディンは、化粧を指すコスメと同じく、ギリシャ語で「装飾」を意味する。
 生きた知識でなくて申し訳ない。俺も、このために勉強したのだ。ちなみに、中の様子は……。
「……なんか、暗くてよく判んなかった……」
「う〜ん、確かにそうだな……サン・ピエトロ寺院のほうに期待するか……。しかし、どこもかしこも教会ばっかだな〜。日本で言うなら、京都みたいなもんなのかな、どっちも古い都だし。そんなもんか」
 お祖母様へ手紙を渡すのに相応しい場所を求めて、教会を幾つかピックアップしていたが、この調子だと有名なところはどこもかしも観光地で、そんな雰囲気は無かったりするのだろうか。反魂の魔女の力を持ってしても、生前を知らない人とは会話は不可能だ。この古い都の、それこそ、霊験あらたかな力に期待するしか無い。元々気休めみたいなものだから、極論を言えば、落ち着いてお祈りが出来る所ならどこでもいいのだから。
 ちなみに、記念切手も見ているのだが、事前に調べた情報だと、おっさんや建物の絵柄ばっかりで、うちの魔女様のお気に召す内容ではなさそうなものばかり。こちらも今後に期待しよう。
 サンタ・マリア・イン・コスメディン教会には「ローマの休日」にも登場した真実の口がある。水の神トリトーンの顔。転じてマンホールなんだとか。他のところにも似たものがあった。口の中に手を入れて、嘘つきだったら手を引きちぎられるらしいが、なんだか俺たちにとって、これほど白々しいイベントも無いと思う。ベアトリーチェは目に手を突っ込んでいた。殺人事件が起こったら、凶器を捨てられるか、口からでも目からでも同じ出口になるのか知りたかったらしい。推理小説では、井戸は凶器を捨てる場所としてよく使われるから、その連想なのだろうけど。
 トレビの泉。泉に背を向けて右手で左の肩越しにコインを投げると枚数に応じた願いが叶うらしい。1枚だとまたローマに来ることができる。2枚だと幸せになれる。3枚だと離婚できる。4枚だと、ローマに住める。とのこと。周りの建物が大きいせいか思ったより大きくは見えなかった。……結果があまり良くなかったので、この記述から内容を察して欲しい。
 疲れと空腹でベアトリーチェの機嫌が若干悪くなってきたので、近くにあったジェラート屋で機嫌をとった。ベアトはアイスクリームに関しては白(バニラ?ミルク?)一択。今回も例外なく白いヤツを頼んでいた。俺はお店の人に薦められるまま、ピスタチオ味。で、いつも、俺に一口よこせと要求してくる。
 その後、泉から歩いてすぐの所にあるスペイン広場へ。
 夜はローマ市内のレストランで夕食を食べた。観光客ばっかりだから、あまり美味しくないと言うことだったけど、舌がバカな俺にはよく判らなかった。カップルで食事をするときには、横一列の方がいいなんて言うけど、俺は断然対面式。恋人の表情を見ながら会話をしたいから。昼間の彼女も快活で好きだけど、やはりベアトリーチェは夜のほうがそれらしい。この季節の飾りは魔女にとっては支配する眷属や力を貸してくれる友人たちでしかない。
 小ぶりのシャンパンのボトルを1本注文して、旅の成功を祈った。テーブルの蝋燭がオレンジ色に揺らめき、彼女の表情を知らせてくれる。話している内容は昼間とほとんど変わらない、最近面白かった芸術作品や友人の話。彼女の子供の頃の夢の話。白いブラウスから覗く鎖骨が色っぽい。そのまま胸元に視線が落ちていってしまう……。ワイングラスの持ち方も随分様になっている。いつもと違う服装のせいか、大人びて見えた。彼女に見とれていると話をちゃんと聞いているのかと言われてしまうけど、その美しさに目を奪われないのもまた、罪なのではないかと思ってしまう。

Honeymoon of golden witch 〜イタリア編〜その1

 よう、また会ったな。俺の名前は右代宮戦人。もう、俺とベアトの旅行を人にこうして語ることはないと思っていたが、語らない事で約束破りにされちゃ目覚めが悪い。ということで証人になってもらう目的で、こうして話すことにする。
 嫁と出掛けてこんな状況になるなんて、それも、「朝まで濃厚に愛し合った」とかじゃなくて、ただ動物園に出掛けて、会話をして、弁当食べて、キスをして帰ってきただけなのに、こんなに舞い上がってしまうのが信じられなかった。彼女の喜ぶ顔がもっと見たくて、調子に乗って次の旅行の約束までしてしまった。約束破りは大罪なのだから、リスクの方が大きかった気がするけど、してしまったものは仕方ない。俺達が18歳と19歳の若いカップルだったら、彼氏の男はきっと、俺でなくてもそうしていたと思う。この関係がずっと続くのだと確定させたくて。自分は女の子の期待に応えることが出来る男なのだと、即座に示したくて。
 あの時に見た、ベアトリーチェの笑顔が本当に忘れられない。本当に心から幸せそうで、としか言葉では表現できない。光輝いているのに、表情そのものは素朴で控えめ。残念ながら、その絵は俺の脳にしか残っていない。写真にでもとっておくんだった。しばらくの間、脳裏に焼き付いて消えてくれなかった。時間が経ってやっと、思い出そうとしないと思い出せなくなった。もう一度、あの笑顔が見たい。きっと、思い出補正で実物よりも良くなっているに決まっている。だから、そうじゃないと確かめたかった。
 「無邪気な性格は相変わらず」だかなんだか知らねーけど、俺はお前に惑わされっぱなしなんだよ。クソアマが。カワイイんだよこの野郎。お前がノートにシール張ってるのは知ってる。それを大事にしてるのも知ってる。お前が俺とお前の内容の薄い本()を集めてるのも知ってる。……そしてお前が、本当は性にものすごく抵抗があるのも知っている。
 そこで俺は考えた。まず、シールだ。この旅行でシールを入手する。それは、特別な価値を持つアイテムとして認識されるだろう。シールを売ってる店、それも特別な、ここでしか入手出来ないシールを売っている店が望ましい。特別なシールってなんだよ?と自分で言ってて思うが、シールの最大の特徴は、糊の付いてる紙だ。色々考えたけど、切手だったら、これで代用できるだろう。記念切手みたいなものがあればいいけど。
 ベアトリーチェから話が出るまですっかり忘れていたけど、紗音ちゃん達の手紙を収める場所も決めなくてならない。……なんだか自分のことしか考えていないことを思い知らされて、恥ずかしくなった。というか、彼女の呼び方はこれでいいのか?紗代ちゃん……は良くないよな、人の奥さんだし。紗代さん?……違和感ありまくりだ。出来れば今後も紗音ちゃんで通したい。
 そして、イタリアに行くためには飛行機に乗らなくてはいけないことも思い出してぞっとしている。こればっかりは……なんとかなるのか、ならないかは出たとこ勝負だから。とりあえず、出発前は、そんな感じな訳さ。
総合訪問者数
プロフィール

梅沢 菜摘

Author:梅沢 菜摘
ツイッターでの考察などをまとめてます。リンクは自由ですが、無断転載はご遠慮願います。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。