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「名称トリック」が持つ物語的な意味

 EP3の南條殺し、EP6の客室のチェーン密室。この解法として、私は複数の名前をもつ名称トリックを基軸にして反証してきました。今回は、そのことが持つ名前がもつ意味を物語的に論じていきたいと思います。

■社会的な人格
 私は人格という言葉を使うのを極力考察の中で避けています。というのは◯◯人格という言葉を、社会的人格、役割のように捉えているからです。
 仕事をするときと、親しい友人とくつろいでいる時、恋人と二人でいるとき、ひとりきりの時、それぞれ微妙に性格が違うことは多く、時には、ある一面しか知らない人がいきなり別の面をつきつけられたら混乱するほど性格が違うように感じることあったりするのではないかと思います。
 そして、それを一言で表したのが名前だと思います。真里亞が、それを一言でまとめてようなことを言っています。

真里亞「形が依り代となるように、名前もまた、強力な依り代なの。異界の未知の存在は、名前を与えるだけでも、その魔力を大きく増すんだよ…!!
 だから名前は大事なの。うー!」
(略)
ベアトリーチェ「名前も立派な依り代である、か。……味わい深い話であるな。」
真里亞「依り代として、姿はとても大事だけど、名前も負けないくらい大事なの。」
ベアトリーチェ「道理であるな。名も知らぬ者よりも、名を知る者の方が強く印象に残るものだ。」

 EP7 「黄金郷への旅立ち」より



 うみねこには名前に関する記述が多く、譲治と紗音はみんなで居る時はかしこまった名前で呼び合ってるけど、二人の時は別の名前で読んでいる。朱志香は家では朱志香と呼ばれているけど、学校ではジェシというニックネームで呼ばれていて、自由に振舞っている。金蔵はゴールドスミスというペンネームで怪しげな魔術の論文を書いている。うみねこ散に入っても、福音の家から来た若い使用人は、仕事中は祝福された名前で。そしてオフになったら、馴染みのあだ名で使い分けていました。幾子は記憶を失って不安定な人物に十八という名前を与えて、その人物の精神を安定させるのに一役買いました。縁寿は新しい人生を歩むのに、新しい名前をつけることにしました。つまり、ある人物をその名前で呼ぶと、その人物はそのような存在になっていくのです。

■安田紗代のもつ名前
 安田紗代という人物は、最初は物をよくなくす、仕事のできない使用人で、ヤスとからかわれ、友だちはいませんでした。紗音という、本来の自分に与えられた使用人としての名前にふさわしい、仕事のできて優しい理想の自分を思い浮かべては、日々を過ごしていきます。物をなくすのは魔女ベアトリーチェのしわざであると熊沢に教えられ、それを信じます。(要はこの時点では物をなくすという概念の擬人化が魔女ベアトリーチェ) 

 
 やがて、仕事を覚えて、紗音の名前にふさわしい、自分がこうなりたいと思っていた自分に近づいていきます。いじわるな先輩は辞めていき、安田紗代は一番の先輩になり、後輩に指導する立場になりました。しかし、後輩たちは不真面目で安田紗代こと紗音を尊敬することはなく、時折忌まわしいあだ名のヤス呼びをする始末。 
 

 そこで、紗音は、後輩の鍵を隠し、「魔女ベアトリーチェが隠した」と言います。ここで設定を変更し、自分は魔女に、紗音は幻想に…という描写がなされますが、要は、どっちも安田紗代の脳内で起こったことだと思います。一人でいるときに、脳内で呟く独り言が魔女っぽい感じで過ごしているだけだと思うんです。やっていることは学校へ行き、真面目に紗音として仕事に行き、たまに後輩にイタズラをし、自由な時間は趣味の読書で魔女っぽく脳内でツッコミを入れたり、物をなくす魔女とおしゃべりする程度です。(どっちも脳内会話) 
 そんな時、魔女は紗音を魔女の仲間になろうと誘いますが、紗音は「人間の世界には魔女よりも楽しいことがあるから」と断ります。言うまでもなく、それは従兄弟組との交流です。やっと同世代の友人ができた安田紗代はもう幼稚なごっご遊びを卒業しようと思ったのだと思います。 
 趣味の読書を通じて戦人と親密になり、将来の約束までしてしまう紗音。しかし、思うように事運ばず、そのことで思い悩む事が増えます。結局、一人で悩むことが多くなり、魔女の友人たちも意見を聞く始末。これも、単に誰にも相談できず悩んでただけです。(要は脳内会話) 

 そして、戦人のことを諦めようとするのですが、ここで「ベアトリーチェに恋の芽を預ける」という方法をとります。戦人のことが好きだったのはベアトリーチェであって紗音じゃない。そう思うことで、この悩みを終らせようとします。これは例えば「仕事の時はこのこと考えるの辞めよう」とか「物理的に考える時間減らして気負い過ぎないようにしよう」ってことなのではないでしょうか。物理的に考える時間減らすために、嘉音を生み出したのだと思います。嘉音の設定を考えたり、嘉音に仕事を教えるという体裁で、仕事の復習をしたり、メモをとりなおしたりしていたのではないかと思います。 
 
 ということで、私は全体的に多重人格者やそれに類するものとして安田紗代を捉えていません。

 
 次に、偽書作家テストの項目になった、赤字の使用人が犯人であることを禁ずについての反証について。
 これは単にゲーム盤の登場人物の紗音と、現実世界のヤスこと安田紗代はちがうということでいいと思います。彼女は使用人でありながら、碑文の謎を解いた次期当主であり、三代目ベアトリーチェでありますから。紗音(または嘉音)は使用人であるって言われたら、紗代だ、理御だ、ベアトリーチェだって言えばいいんです。この3つの名前は、使用人としての名前ではありません。そして、紗音の本名の紗代は多くの人が認め、現状でそう認識している名前であり、おそらく彼女が通っていた学校でもその名前で通っていたでしょう。理御も十分に今後、改名などで社会的に認められる可能性のある名前です。 
 
 それに、この赤字は原典のヴァン・ダイン「端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。」を改変したものです。もともとの意味を考えれば、紗音はEP1から登場しているメインキャラで、全然端役ではありません。 

 

 一般にはヤス=ベアトかつベアト=紗音+嘉音やヤス=ベアト+紗音+嘉音といわれていますが、私は単にこれらを名前でしか区別していません。 
 
 
 安田紗代(本名)
=ヤス(昔の嫌なあだ名)
=紗音(使用人としての名前)
=嘉音(男として生きる為に名乗った使用人としての名前)
=ガァプ(かつてのイマジナリーフレンド。真里亞に命名され、存在が復活する)
=ベアトリーチェ(碑文の謎を解いたことによって得た称号であり、自らの血縁を示す名前)
=理御(金蔵が安田紗代に与えようとした名前)
=嘉哉(嘉音の本名という設定の名前。男性として生きることを選択した場合、この名前になる) 

 
 と、どれかが表の顔で、どれかが裏の顔姿。しかし、それは一つだけが本当で残りが嘘というよりは、どれも本当なんだと思います。あくまで、その時に、表に出ているというだけ。

■恋をする資格
 EP4までのベアトリーチェがゲームマスターを務めるゲーム盤世界ではこれでなんの問題もないのですが、EP6のバトラがゲームマスターを務めるゲーム盤では、誰が誰と結ばれるかということに焦点が当てられました。これは、人生や生き方には様々な可能性があり、その人生には伴侶がいるということを示していると思います。
 
 人は恋愛だけをして生きているわけではありません。社会的な活動を行っているのです。肉の体を維持するためには、労働や生活の糧が必要です。精神的な充足を得るためにも、人の世では自分の個性にあった活動をして、人から認めてもらうことが必要だとうみねこでは繰り返し描かれてきました。
 バトラはベアトリーチェに、「ゲーム盤の外に連れ出せる」と言いました。譲治は紗音に、「素晴らしい家庭を築こう」と言いました。朱志香は嘉音に、「もし良かったら、一緒に音楽活動をしよう」と言いました。誰を選ぶか選択をして、人生の可能性を一つに集約させたとき、その後はこのような人生が待っていたんだ。現実には死を迎えて全てが無に帰ってしまったとしても。私は、EP6のテーマのひとつに、そのようなことがあるような気がします。

 うみねこのゲームとしてのジャンルはサウンドノベルですが、一般に言われるサウンドノベルというのは分岐のある形式でマルチエンディングのアドベンチャーゲームのことを指します。
 うみねこには選択肢はありません。けれど、選択をすることで、描かれる別々の人生は、マルチエンディングそのものだと思いました。



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